風間 清選
朝霧の運河をわたる舟の音ゆっくり町が目をひらきゆく(みどり市)川上花子
返却の期限を過ぎた文庫本しおりのあたり秋の陽がある(ひなた町)窓辺一郎
夕映えの橋にもたれて待つひとのかばんに小さな栗の実がある(朝凪村)岸辺明
湯のみから立つ湯気の向こうに母の背が少し丸くて冬をむかえる(夕映町)本町洋
評 日常の小さな場面を、静かな言葉で切り取った歌が並んだ。
朝霧の運河をわたる舟の音ゆっくり町が目をひらきゆく(みどり市)川上花子
返却の期限を過ぎた文庫本しおりのあたり秋の陽がある(ひなた町)窓辺一郎
夕映えの橋にもたれて待つひとのかばんに小さな栗の実がある(朝凪村)岸辺明
湯のみから立つ湯気の向こうに母の背が少し丸くて冬をむかえる(夕映町)本町洋
評 日常の小さな場面を、静かな言葉で切り取った歌が並んだ。
改札を抜けて振り向く子の声が風にまじって階段のぼる(みどり市)見回涼
ひとり分の味噌汁つくる朝の鍋ふたり分でも足りる気がする(川上町)野分花
川べりに干した洗濯物のうえ雲がひとつずつ通ってゆけり(運河町)煉瓦太郎
図書館の閉館の曲聴きながら読みかけの頁に指をはさむ(ひなた町)書斎友
評 暮らしの音や気配を、結びの二句で受け止める歌が目に付いた。
新米の袋を抱えて帰る道月がずっとついてきている(みどり市)秋津実
回覧板わたしに回って来た夜は隣の犬も静かであった(朝凪村)石橋守
落ち葉焚き煙のなかの顔たちが昔の写真みたいに笑う(夕映町)火野灯
バス停の時刻表にも秋が来て二分遅れを許しあう朝(川上町)朝霧凪
評 比喩が、無理なく日常に溶け込んでいる歌を選んだ。
ふるさとの祭りの太鼓聞こえ来て受話器の向こう父の咳ばらい(みどり市)遠野鈴
雨あがり傘をたたんで見あげれば窓の灯りが一つずつ増ゆ(ひなた町)灯台守
夜勤明け朝のパン屋の匂いして今日の私に戻ってゆけり(運河町)夜明子
老眼鏡探していたら首にあり笑う私を猫が見ている(夕映町)猫目石
評 ユーモアのある歌が多く、読んでいて楽しい週だった。
秋灯や本の背表紙読み進む(みどり市)川上花子
新米の湯気まっすぐに立ちにけり(ひなた町)窓辺一郎
運河ゆく舟の影ゆく秋の暮(朝凪村)岸辺明
栗ごはん祖母の茶碗の欠けしまま(夕映町)本町洋
鰯雲子らの自転車列をなす(川上町)野分花
評 季語の働きが、はっきりと伝わる句が並んだ。
夜長し頁の端の折れ癖(みどり市)見回涼
柿の木に梯子かかりて日暮れけり(運河町)煉瓦太郎
案山子にもまだ名のなくて雨となる(ひなた町)書斎友
秋風や改札口の人まばら(朝凪村)石橋守
稲妻や橋のたもとの小さき灯(夕映町)火野灯
評 取り合わせの妙を楽しんだ。
月今宵窓辺に猫の影ひとつ(みどり市)猫目石
落葉踏む音だけつづく帰り道(川上町)朝霧凪
とんぼ来て釣り糸の先ゆれにけり(運河町)秋津実
秋の川ひかりばかりが流れゆく(ひなた町)遠野鈴
新蕎麦や暖簾の揺れる昼さがり(夕映町)灯台守
評 見たままを詠んで、景が浮かぶ句を採った。
霜降や湯気立つ鍋を囲みけり(みどり市)夜明子
冬支度毛糸の玉のころがりぬ(朝凪村)岸辺明
秋深し町の時計の少し狂う(川上町)野分花
どんぐりを数えて子らの帰り道(ひなた町)窓辺一郎
稲架の影長く伸びゆく夕かな(夕映町)本町洋
評 季節の移り変わりに目を向けた句が多かった。